日本語と日本文化が英語習得に影響する!「言語転移」とは?

会話中の男女

「英語を勉強していますが、なかなか話せるようになりません。もしかして、日本人だから英語を学ぶのが難しい、なんてことはありますか?」

そんな疑問にアンサーするのが「言語転移」という言葉です。

このページでは、言語転移の基本的な意味を含め、それが英語学習者にどんな影響があるのか?わかりやすくご紹介します。

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はじめに

言語転移(language transfer)とは、かんたんに言うと「外国語学習の際の母語の影響」を指します。私たち日本人にとっては母語となる日本語が英語学習に及ぼす影響、と考えればわかりやすいかもしれません。

それが一体何を意味するか?言語転移の重要なポイントは、母語と学習対象となる外国語の距離が遠ければ遠いほどその外国語を身につける難易度が上がる、ということです。母語と似ている言語は比較的かんたんに習得でき、逆に母語と似ていない言語の習得は比較的に難しくなります。

だからこそ、ドイツ人やフランス人が英語を学ぶことはそれほどハードルが高いものではなく(ドイツ語とフランス語は英語と距離が「近い」(=似ている)から)、一方で日本人が英語を学ぶことは実はハードルが高い(日本語と英語は距離が「遠い」(=似ていない)から)のです。

この意味で、「英語を勉強していますが、なかなか話せるようになりません。もしかして、日本人だから英語を学ぶのが難しい、なんてことはありますか?」と感じることは根拠がないことではありません。

日本人が英語が苦手なのは必ずしも日本人が英語学習に不熱心ではなく、そもそも日本人にとって英語学習の難易度が高いのはある意味、「当たり前」なのです。

2つの転移

転移という言葉は今まで身につけてきた知識やスキルが、新しい知識やスキルを学ぼうとするさいに影響を与える現象を意味します。そのため、言語に関わらず他の物事の習得にも転移は影響を及ぼしています。

良い影響の場合は正の転移(positive transfer)、悪い影響の場合は負の転移(negative transfer)と言います。例えば正の転移。転移はそのスキル同士が似ていれば似ているほど、正の転移が起こりやすく、スキルを習得しやすくなります。

例えばソフトテニスをしていた人が硬式テニスを習い始めたとします。「ラケットを使う」という動作をソフトテニスで経験した人にとって硬式テニスを習うことは、ラケットを使うスポーツをした経験がない人より、比較的用意に馴染みことができます。

一方、ソフトテニスをしていた人が新たにサッカーを習うにも、ソフトテニスとサッカーはスポーツとして違いが大きいため、正の転移は起こりません。

このような転移の仕組みは外国語を学ぶさいも同じです。母語と学ぼうとする外国語が近いほどそれは容易になり、学ぼうとする外国語が母語とは遠いほど難しくなるのです。

ポイントは転移の影響を理解すること

ここで重要なのは、「日本語と英語の距離は遠いです。だから日本人が英語を学ぶのはとても大変です」という話ではありません。大切なことは、転移の影響を理解した上で、その影響を極力抑えることです。

転移が起ころうとも、そこには良い面と悪い面があります。正の転移が起こるにしても、近いがゆえに間違って覚えてしまうことも起こり得ます。

先の例で例えるなら、ソフトテニスをした経験がある人は比較的硬式テニスも身につけやすいことは確かですが、ソフトテニスのプレイスタイルが抜けきらず、(似ているがために)硬式テニス独自のプレイスタイルの習得に悪影響が出ることもあるのです。

例えばラケットの握り方や、フォアハンドやバックハンドの打ち方がそれに当たります。

語学の習得も同じで、言語同士が似ている(距離が近い)ほど習得も容易になる一方、母語の発音の影響がそのままになってしまう場合もあります。似ているからこそ、間違っている部分を誤って身につけやすいというマイナス面もあります。

日本人の場合、日本語と英語の距離が遠いため、負の転移が起こる傾向にありますが、言語転移という影響があるということを理解して、根気よく学習に取り組むことが大切です。

文化的な転移も起こる!

ちなみに、転移はスキルだけでなく、文化的な面も影響します。たとえば、日本人なら「私にはこんな実績があります」と堂々と自分を売り出すより、「私なんてたいしたことはありません」など、ほめられると謙遜する姿勢を身につけています。

たとえばあなたが英語のレッスンを受けて先生に発音をほめられたとき、ストレートに”Thank you!”と言うより、”My English is not good enough.”(=私の英語はまだまだです)と反射的に言ってしまうなら、それは日本の文化の影響を受けているからかもしれません。

謙遜を大切にする文化(日本)と自己主張を良しとする文化(英語)の違いですが、近年「日本人は自己主張を控え謙虚に振る舞います」という傾向は変わりつつあります。

こういったことは文化的な転移で、英語習得に関してはマイナスの影響を及ぼす可能性があります。このように、母語の影響が外国語学習に影響していることを認識しておくことが大切です。

まとめ

ある物事が別の物事の習得に影響する。これが転移であり、母語が外国語の習得に影響することを言語転移と言います。

転移には良い影響と悪い影響があり、言語学習の場合、母語が身につけたい外国語と似ており、言語同士の距離が近い場合はその習得が容易になる傾向にあります。その一方、距離が遠い言語の習得は「母語と全然違う」ゆえに、難しくなる傾向にあります。

転移は言語習得だけでなく文化的な転移もあり、自国の文化も言語の習得に影響しています。「外国語を学ぶさいは母語とその背景の文化が言語の習得に影響を及ぼします」という現象を知っておくことが大切です。

最後に

以上、言語転移について、その大枠の意味と英語学習者に及ぼす影響についてご紹介しました。

私たちは完璧な「ゼロ」から何かを学ぶのではなく、それまで身につけてきた何かを土台にして、新しい物事を学び、身につけていきます。そのとき、それまで身につけてきたものが新しいものを学ぶ上でかんたんになることもあれば難しくなることもあります。

大切なのは、そういった影響があることを理解し、新しいことを学ぶことです。ぜひ、英語学習の参考にしてみてください。

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